火星-居住2 (62)

(火星 -居住 (60)より)

 

  そして、この原子力電池は、火星由来の水の利用や、惑星の環境改変の初段としても、重要な役目を果たす可能性がある。

  元々、液体の水が拠点基地近傍にあり、そのような水を基地に引くのが最も簡単な方法であるが、科学観測によれば、今のところ地表近辺に、恒常的な液体の水は存在しないので、極地や平原、渓谷の表面近傍の氷を利用することになる。

  さらに、地表に液体の水源を作るという方法も考えられ、その液体の水源の作製に、先ほど述べた原子力電池を装備した環境改変ユニットが使用されるわけである。それは、探査機のように電力の供給を目的にしたというよりも、熱をそのまま利用するものである。より具体的には別の回に述べるとして、そのような原子力電池による発熱ユニットは、例えば、極冠の氷原や氷を含む平原に、居住ミッションに先行して、アンカーかブイのように複数投入にされ、長期間にわたり放熱しながら、近傍に液体の水の領域を形成することになる。

  さて、氷にせよ液体の水にせよ、エネルギーや労力の節約、継続性の観点から、最初の居住基地は、水源に近いことが要件になると思われる。そして、その居住基地の構築は、有人ミッションよりも遥か前に準備を進めておくことが肝要である。

  ミッションの人員が、スカイクレーン等で投下された基本的建築資材を建設予定地に集積し、着陸艇から通いながら、機密服を着て基地の建設や構築を行うという段取りは、映画など創作物の世界ではありえそうであるが、空気、食料等の生活資材、そして時間が限られた火星上においては、現実的では無いように思われる。念入りに準備されたこれまでの火星探査においても、ほぼ毎回何らかのトラブルが発生しており(できることは、トラブルの頻度を減らし、代替法を用意しておくことである)、居住ミッションにおいても、資材、機器、気象、人員等が関係した何らのトラブルが発生することが十分予想される。

  問題は、そのようなトラブルが、その時点のミッションの装備や状況によって解決できるものなのか、次の補給ミッションを必要とするものなのかという点であり、後者の場合、計画が数ヶ月、停止することになる。ミッションは大過剰の生活資材の投下を前提とするので、生命維持に支障はないと推定されるが、その間、着陸艇が人員の唯一の生存空間となるわけである。数ヶ月後の補給が順調に行われ、基地の構築を再開できたとしても、新たな問題の発生は、ミッションの遂行能力自体を奪うことになる。

  それでは、火星に持続的な居住拠点を作ることなど、幸運にも何も問題が起こらず成し遂げられた慶事であり、そんなリスクのあることは、少なくとも大気の改良が済んだ未来(可能であるとして)でいいのではないかということにもなる。本文の目的は、遥か未来でなくとも、現時点或いは到達可能な科学的背景において、構築可能な火星居住基地の輪郭について言及することであるが、成功する可能性が最も高い方法は、完成品又はほぼ完成品の居住ユニットを投入することである。

  すなわち、居住ミッションに使用する基地は、地球において製作され、人員の到着に先行して火星表面に投入された、完成品又はほぼ完成品の居住ユニット(当然のことながら、地球において生命維持システム、安全性、拡張性等を徹底的に検討されたものである)を連結して構築される事が望ましい。それらユニットの外形を、一概に決定することは難しいが、強度や生産コストの面から、球や繭形や饅頭形、又はそれらに内接する多面体のような構造、ISSに見られる円筒などが想定され、複数の共通した連結面を持ち、容易に他ユニットと接合可能なものである。さらに、ユニットの一面に車輪やキャタピラーのような移動要素を備えており、ミッションの人員や地球からの遠隔操作により、自立移動できる事が必須である。

  このような居住ユニットは、ミッションの着陸予定地近傍にあらかじめ投入され、着陸艇を基幹に連結、拡張されたり、水源地近辺に投入され、新たな基地として構築されることが想像できる。当然、ユニットは、地球における製作過程において、遠隔操作により集合連結させ、安定した与圧空間が形成できることを試験されたものということになる。ユニットは、言わば、生命維持システムを備え、内部に電離放射線から防護される与圧空間を形成でき、移動して他ユニットと連結(脱連結)できるロボットのようなものと考えることができる。

 

(続く)