動物-肉2 (68)

  近年の人工肉、培養肉産業の拡大には、動物に対する愛護的感情、肉利用に関する宗教的問題、家畜の排出するメタンガスの問題、畜産業としての環境の悪化など、複数の要因が関係しているわけであるが、細胞培養技術、特に大規模培養技術の進展が寄与するところが大きいように思う。

  畜産業では、放牧地や厩舎等の維持管理、病害を抑制しつつ長期間肥育する工程、次世代を得る繁殖工程などの業務があるが、培養肉産業では、これらの作業、工程の多くが存在しない。基本的には、培養施設、種(たね)細胞の保存設備、(どのような状態で出荷するかによるが)培養肉の加工設備や研究室のみであり、1つの建物内で完結することになる。

  近代畜産業であっても、感染症は依然として脅威である。鳥インフルエンザウイルスや豚インフルエンザウイルス、豚熱ウイルス、深刻な発育不良を引き起こす豚サーコウイルス2型に関しては、ワクチンの全頭接種が義務付けられており、牛伝染性リンパ腫ウイルスなども、リンパ腫を発症していると全て廃棄となる。鶏豚の感染症で全頭処分というニュースも、最近はそう稀ではない。それに対して培養肉ではどうか、

  培養肉では、細菌等のコンタミネーションが最大の問題となる。食材としての肉は、通常筋繊維を食するわけであるが、筋繊維自体には、細胞分裂能がないため、その元となる筋芽細胞或いはその前駆細胞を培養し、増幅させていくということになる。基礎研究レベルでは、抗生物質等を添加して培養を行い、短期間なら無菌培養も可能であるが、商業レベルの100L或いそれをはるかに超える規模の培養をコンタミさせずにどう行うのかという問題がある。

  抗生物質を添加して培養を拡大していき、細胞回収前に短期間無添加で培養を行った後回収し、洗浄するという方式も考えられるが、その辺りは、特許が関係した各企業独自の技術ということになるのかもしれない。何れにしても、ルーチン作業として確立されてしまえば、それ程、問題はないように思われる。仮にコンタミのロットが発生した場合、培養を廃棄し、後はタンクやラインの洗浄、UV処理ということになり、畜産業よりも対策は容易のような気がする。畜産業と培養肉産業に、それぞれメリット、デメリットがあり、今後それぞれがどのように盛衰していくのか、興味深いところではある。

次に、そのような培養肉産業の未来の形というものを少し考えてみることにする。  

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  今後、世界中で(もちろん日本においても)、複数の企業が培養肉を生産するようになると、他社との差別化をはかるために、より実肉に近い培養肉の作製が試みられるようになる(ある意味当たり前の話であるが)。培養肉に、実肉に近い風味を付与する培養液が用いられたり、細胞が三次元的に配向する工夫がなされたり、筋肉組織由来の幹細胞から脂肪細胞を誘導することも可能なので、筋細胞と脂肪細胞が適度に混ざった培養肉が作製される可能性もある。

  一方、同じ動物種であっても、品種や肥育環境(主に飼料)が異なれば、関連する細胞のプロテオーム等が異なり、細胞の融合体としての肉の味も異なることが予想される。培養牛肉に関して言えば、筋芽細胞や筋サテライト細胞が、どのような牛から単離されたのか、ホルスタインなのか、黒毛和牛なのか、松坂牛なのか、といった違いが味に反映する可能性があるわけである。上に述べた脂肪細胞を混合させた、霜降り様の松坂牛由来の培養肉が、例えば「松坂牛プレミアムミートA」というような製品として、将来、販売されることも想定でき、同じ動物種由来の培養肉であっても、普及品、高級品等の差別化がはかられるという見方である。

  また、「動物-肉 (67)」で触れたように、今後、様々な動物の培養肉化が計画されている。これはある意味、肉食におけるエポックである。欧米や日本の現代人が、トラ、ライオン、ヒョウなど食肉目ネコ科の肉を口にすることなどまずない、ゾウやカバにしても然りである。これら動物は、家畜化されていないのだから当たり前とも言える。しかし、今後、これらを含むさらに多くの哺乳動物が培養肉の対象となり(将来的には非哺乳動物も)、これまで考えもしなかったような動物の培養肉を口にする機会が訪れるかもしれない。

  とは言っても、事はそう簡単ではない。野生動物を対象とする場合、動物自体がしばしば、マイコプラズマや様々なウイルス等病原体を保持している可能性があるので、細胞を採取する過程で病原体が混入しないようにし、混入した場合は、病原体を除去し培養を清浄化する必要があるわけである。今後、様々な動物種の培養肉が作られ、その中にはあっと驚くような美味なものもあるかもしれない。しかし、多くは鶏豚牛と比べて、それほど特性の無いものである可能性もある。そして、培養肉製品としての継続性は、需要によるということになる。

  培養肉の未来予想の最後は、ズバリ人肉である。嗜好的人肉食は現代世界においてはタブーである。しかし培養肉となると話は違ってくる。個人から外科的に取り出した筋肉組織或いは幹細胞を用いて、培養人肉を作る事は技術的に難しいことではない。どこかの宗教指導者が、専門機関に委託し、自らの肉から培養肉を作り出し販売した場合、熱狂的信者ならば購入するかもしれない。憧憬、信仰対象である人物の一部を身体に取り入れたい、一体化したい、力を得たいという、カニバリズム的感情が、流通を可能にするわけである。

  より科学的事情により、培養人肉が有効となる可能性もある。しかもそれは、自己と遺伝的にまったく同一の物を摂取するという点で、自食とも言える行為である(もちろん可能性の話であるが)。食物アレルギーは、近年ますます増大の傾向にある。もし、自己の筋肉或いは幹細胞由来の培養肉を摂取できれば、原則として免疫反応は起こらないことになる。そこまでして肉を摂取したいかという事にもなるが、多くの食物アレルギーが有り、或いは医学的理由により、食べれる物が少ない人にとっては、自己の培養肉は有用な食材になる可能性があるわけである。

 

  さて、今回は、培養肉の未来について考察してみた。重要なのは、培養肉の開拓については、予算と意志があれば、現時点の技術で(改良があるとしても)実現可能であるという点である。今後、数十年の間、培養肉産業はとりあえず拡大し、政府によるガイドライン等も整ってくることが予想される。その頃(火星に基地が設営されていると予想する)には、屠殺による実肉は、一部の富裕層のための嗜好品的存在となり、一方、日本では、黒毛和牛による培養肉が普及している可能性もあるわけである。

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