青緑 (39)

 夏の日のことである。大学の食堂で昼食を済ませ、建物から少し離れた所で、ヤマモモの実はもう終わったかな などと思いながら林を見ていると、目の前を、青いキラメキが走った。速くは無いのだが、何だろうと思い追っていくと、1つ2つとキラメキが多くなり、その頃には正体がわかっていた。それはヤマトタマムシ(Chrysochroa fulgidissima)であったのである。

 飛び回るタマムシをさらに追っていくと、タマムシの行く方向にそれほど高くない木があった。そして、そこでは、圧倒的で幻想的な光景が広がっていた。木の上部の枝に大量のタマムシが連なり、一部は乱舞し、陽を反射して青緑のプラズマのようなゾーンを作り出していたのである。しばらく唖然として見ていたが、我に帰り、誰かを呼びに行こうかと考えたが、戻ってくる間に消失する可能性もあり、そのまま見続けることにした。記録を取ることも考えたが、デジカメ付きの携帯などの普及は、まだだいぶ先のことであったのである。

 今、振り返ってみると、あの状況は、集団的繁殖行動と思われるが、個体を集めているのは、何かという問題が残る。いわゆる何らかの臭い分子に引きつけられるのか、或いは、タマムシらしく、体に特有の反射パターンやキラメキがあり、それに引き寄せられるのか、また別の理由によるのか、今後の知見が待たれるところである。

 タマムシのメタリックな青緑は、いわゆる構造色である。その構造色を装飾に生かしたのが、法隆寺の「玉虫厨子」である。玉虫厨子には、何千匹ものタマムシが使用されているという。玉虫厨子が作られた当時は、当然、今よりも自然豊かで、個体数も多かったと想像できるが、それでも何千匹ものタマムシを、厨子を製作しつつ集めるのは、容易ではなかったように思われる。そこで、想像を逞しくするならば、上に述べたような、タマムシの集団行動や集まる樹木、時期を熟知した人物がおり、そのような現場で、ある程度纏まった数を一網打尽にして集めていた、のではないだろうかということである。

 ヤマトタマムシの良い所は、個人的には裏側も美しいことであると思っている。ちなみにヤマトタマムシの学名のChrysochroaは、珪孔雀石のchrysocolla、クリソコラに似ている。クリソコラの青緑色は、タマムシの地色そのものであるが、やはり何らかの関連があるのであろうか。

 さんざんタマムシを愛でながら、日本の甲虫で最も美しいのは、個人的には、アオカナブン(Rhomborrhina unicolor Motschulsky, 1861)であると思っている。彩度が高く、黄緑に近い金属光沢は、生きる宝石のようである。タマムシアオカナブンは、青緑の昆虫の二大巨頭であるが、どちらも天然のものは、急速に個体数を減らしているという。これら美しい昆虫だけではなく、すべての昆虫が持続する環境が続く事を願うばかりである。