コード (95)

よく行く深夜スーパーの駐車場での話である。いつものように車を降りて、入店しようと歩いていくと、店外に置いてある商品棚の手前を通りすぎる時、アスファルトの上が気になった。そこに異彩を放つ何かを感じたのである。戻り近づいて見ると、それは、シロスジコガネ(Polyphylla albolineata)であった。

 実物を見るのは、もう何十年ぶりであろうか、しばし感激し、写真を撮影(図1)。この深夜スーパーの駐車場については、以前、ベニスズメを発見した話を書いた(美蛾 (71))。同スーパーでは、かなり深夜まで、強力なライトで駐車場を照らしているので、夜間に周囲から昆虫が飛来し、日が昇りライトが消された後も、そのまま地上で休止している という事のようであった(ちなみに、シロスジコガネは海辺のマツ林等に生息しているが、海岸から駐車場まで、直線距離で6.5kmほどである)。そういう出会いがあるので、昆虫の季節になると、いい年の男が、店内に入る前に、駐車場でそわそわしているわけである。

       

        

      (左、図1)

      (右、図2:日本のコガネムシたちその1-BIGLOBE より)

 本州には、大型(体長30mm前後)のコガネムシ(カナブンの仲間は除く)として、シロスジコガネに加えて、あずき色のボディーに白点が美しいヒゲコガネ(Polyphylla laticollis)、黄土色の短毛で覆われたコフキコガネ(Melolontha japonica)、オオコフキコガネ(Melolontha frater)が生息している。名古屋に在住の頃は、季節になると、街灯の下でコフキコガネをよく見かけ、時折、ヒゲコガネに出くわすという感じであった。最近、橋脚の照明の下でヒゲコガネを見つけ、こんなに小さかったかと思うほど、小型の個体で驚いたことがある。

 さて、シロスジコガネで特徴的なのは、何と言っても鞘翅上の白のストライプである。日本で、鞘翅にこれほど大きく、明瞭なストライプのパターンを持つ甲虫は他にいないのではないだろうか。図3にストライプのパターンを模式的に示してある。左右1組ある鞘翅は、正中線に中心に同じパターンである。

 

                             

                               (図3)

 左側の鞘翅について説明すると、図2等、他個体との比較から、番号で示したように、白線が主に5本あることがわかる。その中で明瞭なのは、最も太い中央よりの2、その外側の半分程の太さの3、そして最も外側の、3と同じぐらいの太さの5である。細い1及び4は、個体により、線として繋がっているものもあれば、本個体のように断続的であったり、破線となっている。

(これらは、個体を真上から見たときの観察を基にしている。鞘翅は平板ではなく、体型に沿って屈曲しており、4あたりからその度合いが強くなるので、法線上から見た4、5の実際の太さは、模式図よりも太いといえる。)

 

 では、このように特徴的な鞘翅上の紋様は生存上どのような意味を持つのであろうか。一般的に、このような紋様は、繁殖行動の際、同種を識別し、集合させる視覚的マーカーとして機能しているという見方がある。繁殖行動の促進には、雌雄どちらか、或いは両者による誘引物質の放出(コーリング)も含まれるので、複数ある繁殖行動に関わる因子の一つと考えることができる。シロスジコガネの視覚的識別能力がどれほどのものかは不明であるが、 マーカーである場合、左右鞘翅揃った状態で、図3Aよりも、より単純で個体間で再現性のある、図3Bの方を認識している可能性がある。

 一方、このような目立つ紋様を持つと、天敵に見つかりやすく、捕食されやすいのではないかという、負の側面も想像できる。しかし、現状、種として存続している所をみると、逆に、捕食者に忌避や警戒を促す紋様として機能していると考えることもできる。飛行準備にある時や、飛行している時など、くの字型に広げられた二枚の鞘翅は、はっきりと個体を大きくみせる。また、以前の捕食が不快な経験であった個体にとっては、この紋様は警戒マーカーとして働くわけである。

 さて、鞘翅の地色は褐色〜黒褐色であるが、図3の模式図では、黒にしてある。黒地に白線のこの模式図は、何かを想起させないだろうか。そう、それは、バーコードである。上に述べたように、鞘翅上のこのパターンが、繁殖行動における同族の識別子として機能しているとすると、これは天然のバーコードと考えることができる。そうであるならば、おそらく日本の大型甲虫では唯一のものである。(前胸背にも、中央と両側に短い白線が見られる。さらに言えば眼の周囲にも白部が見られる。これらも識別子の一部を形成している可能性はあるものの、上翅ほどのインパクトは無く、シグナルとしての関与はマイナーである というのが筆者の考えである。)

 

さて、身の回りで、多くの昆虫が急速に姿を消しているという話を聞く。シロスジコガネやヒゲコガネも、県によって、準絶滅危惧種絶滅危惧種である。そしてこの傾向は、今後、どんどん加速することが予想される。であるとすると、自分たちが、小中学生の頃、触ったり、見たりしていた昆虫が、後の世代では、もはや出会う事はないという事態が生じる事になる。この現象は、人間を含めたすべての動物が直面している、地球的規模の変動の予兆と捉えることもできるわけである。