甘味2-2 (78)

  話は少し横であるが、日本人は、欧米人と比べてざっくり十年ほど寿命が長い。寿命には、人種としての遺伝的素因やライフスタイル、気候や環境など、様々な要素が関係してくるわけであるが、食生活の違いも大きな部分を占めていると考えることができる。欧米の研究者たちが精力的に調査し、日本人が多く摂取し、そのような寿命に関係する可能性がある食物の一つとしてあげたのが大豆である。

  欧米では、飼料や食用油の原料として利用される事が多いようであるが、日本では、納豆や豆腐(とその加工品)、味噌、枝豆、煮豆、煎り豆、きな粉など、ほぼ毎日、何らかの形で摂取しており、そこに含まれる成分が、生活習慣病や加齢性疾患の発生を抑制し、健康寿命を伸ばす可能性があると考えたわけである。

  そして個人的には、その大豆に加えて小豆も関係しているのではないかと考えている。小豆は、フラボノイド等のポリフェノールが含まれる抗酸化能の高い食品の一つであり、パウダーには、血糖値抑制作用や血清コレステロール値抑制作用があり、煮汁には抗腫瘍活性があることが報告されている。そして、このような小豆を、日本人は幼き頃より、饅頭、最中、大福、おはぎ、羊羹、ぜんざい、お汁粉、赤飯、あんパン、鯛焼き今川焼き、どら焼き、甘納豆、あずきバーなど、様々な形で摂取してきたわけである。このような食文化は、欧米にはないものである。今回の和菓子打線にも、少なからず餡製品が含まれている。

 

  さて、健康食品としての小豆の価値が欧米に知られると、価格が高騰するのは必至であるので、今しばらくは、日本人の楽しみとして、黙っていた方が良いような気もするわけである。

 

7. ふうき豆(山形)

  簡潔に言えば、砂糖を加えて煮た青えんどうの煮豆である。割れ、崩れ、粉を吹き、一部は他と融合しペースト状で、豆の原型を留めているものの方が少ないぐらいであるが、これら特徴のすべてが、この煮豆を、これまでにない菓子に仕立てている。

  鮮やかなウグイス色の塊を、一掴み口に放り込むと、さして噛まなくても口の中で溶ろけ、豆の香りが立ち上がってくる。県内では、山田屋、まめや、長栄堂など、複数の店舗のものが販売されているが、粒立ちや粉の吹き方など、それぞれ異なるのが面白い。いつも思うのは、青エンドウ豆でうまくいったのだから、甘納豆の原料である、そら豆やインゲン豆、金時豆など他の豆でも、似たような菓子が作れるのではないかと言うことである。

  東京や名古屋の百貨店の全国菓子・名産品コーナーに立ち寄ると、何曜日入荷予定 などとお知らせが出ていることがある。 比較的足の早い菓子であり、最近は、そのようなコーナーで調達することが多い。

8. ちとせ餅、八雲もち (東京)

  両者は、求肥か餅のような菓子で有りながら、あまり和菓子に使わないナッツを使用しているという点で、似ているかもしれない。

  ちとせ餅 (築地 ちとせ)は、生地にアーモンドをつき込んだ薄い正方形の求肥で、アーモンドの香ばしさと、餅の柔らかさ、甘さが調和している。東京駅の地下店舗などで、帰省前に購入することが多かったが、ある時、久し振りに店に行くと、終売になりましたという、店員さんの申し訳なさそうな返答があり、愕然としたことを覚えている。早く製造を再開してほしいものである。

  八雲もち (御菓子所 ちもと)は、生地にカシューナッツを加え、黒砂糖で味を整えた、少しインパクトのある求肥餅である。味が濃いので、煎茶というよりも、ブラックコーヒーに合うかもしれない。初めて手に取った時、一つづつ竹の皮で包装されていて、丁寧な仕事だなと感心したことを覚えている。最近は、食す機会がなかったが、また東京によることがあれば、購入したいと思うわけである。

9.しとぎ餅 (秋田)

  しとぎ餅 (一乃穂)は、餡の入った餅を細長く薄く伸ばし、両面を炙った餅菓子である。大福の変形のようにも見えるが、焦がすことによって、独特の香ばしさが加わっている。実は、このタイプの菓子は日本中に見られ、三重だけでも、なが餅(笹井屋)、安永餅(永餅屋老舗)、立石餅(もち久)、 太白永餅(金城軒)などが有り、焦がし具合も、それぞれ異なる。

 

(焦がすことでキャラメル化や褐変反応が起こり、多様な物質が生成され、風味やテーストに変化が加わると予想されるが、日持ちもよくなるようである。)

 

  自分は、焦がし具合が強めの方が好きなので、時間がある時は、オーブントースターで少し炙ったりする。しとぎ餅は、大地の恵みが直結した、衒いのない素朴な甘味である。ちなみに、一乃穂では、しとぎ豆がき という黒豆の入ったおかきも販売しており、これも結構好みである(この、しとぎ豆がき、ゆかり(坂角総本舗)、じゃがポックル(カルビー)が、自分の中の、ベスト煎餅・スナック系菓子である)。

 

さて、以上が、現時点における、甘味を対象とした、和菓子打線である。味わいや美味しさは記憶の中で生きているので、終売のものも含まれている。名の知れた菓子が多いので、好きな菓子が出てきた方もいるのではないだろうか。新たな出会いがあれば、この打線も変わることになる。その時は、また新打線を紹介してみたい。