甘藷 (37)

 サツマイモはずるいと思う。煮たり焼いたりしただけでほぼスイーツとして完成しているからである。小豆(赤餡)、エンドウ豆(鶯餡)、インゲン豆(白餡)や栗(栗餡)などは、砂糖を加えて炊くか炊いた後砂糖を加えて、練ることにより餡になるが、サツマイモは、火を通した物自体が、すでに餡の塊とみなすことができる。うまく火を通された安納芋などは、ソフトなグラッセのようである。

 サツモイモ自体のスイーツとしての完成度の高さから、美味しさという点において、サツマイモを用いて敢えて菓子など作り上げる必要もないほどであるが、幾つかの例外も存在する。 

 その1つが、主に愛知、東海近辺で作られている、いわゆる「鬼まんじゅう」である(今昔2 (35) )。「鬼まんじゅう」は、簡潔には、小麦粉の生地に、角切りのサツマイモを入れて蒸しただけのものであるが、これがあっさりして実に美味い。上に述べたように、サツマイモは火を通しただけで餡になっているので、噛み締めると、もっちりした生地の中で、突然しっとりとした甘いイモ部に出くわすことになる。生地とイモの異質な出会いが、鬼まんじゅうを、飽きのこない一段上のスイーツに仕上げている。旧名古屋人などは、他県にいても、物産展などで偶然、鬼まんじゅうを見つけると、心踊りついつい購入してしまうことになるわけである。

 饅頭系の和菓子の製造は、結構手間がかかる。ごく普通の饅頭にしても、餡の製造から行うならば、半日仕事である。ところが、鬼まんじゅうは、サツマイモのぶつを薄力粉の生地に混ぜて蒸すだけである。加熱によって自動的に甘みを持った餡部が形成されるわけであり、生地にも少々の甘みをつけることがあるとしても、これほど製造工程が簡単でありながら、おいしい和菓子はあまりないのではないだろうか。

 もう1つ例外があるとすれば、それは「大学芋」であろうか。この、乱切りにしたサツマイモを揚げて、蜜を絡め、ゴマをかけただけのスイーツは、しばしば、口の中で凶器のようになる。最近はソフトなものもあるようであるが、作られた後冷えたものは表面が固い飴の層となり、この層を突き破って噛み締めると、柔らかいイモ餡に到達する。そして、ゴマの香りがいい仕事をする。大学芋は、鬼まんじゅう同様、多分にこの食感の違いにより、美味しさが引き出された菓子であるように思う。

 

 サツマイモは菓子になるだけでなく、デンプンや焼酎の原料にもなる。となればバイオエタノールの原料としても有効である。葉や茎も野菜として食用になる。作付けも容易である。要するにサツマイモは作物のアスリートでありマルチプレーヤーである。遠い将来、火星等に人が住むようになり、最初に大規模栽培される作物の有力候補の1つが、サツマイモであると自分には思われる。となると、未来の火星人が、鬼まんじゅうや大学芋を食すということになるのかもしれない。