瞬間 (6)

  週末はよく奈良に行った。その日は、春日大社へと向かった。春日大社は参道が特に良い。幅広い石砂利の両側に苔むした灯篭、その背後の鬱蒼とした木立、それらの印象が一体となって、神域としての緊張を高めている。夕方近くで空は黄昏ており、参道には誰もおらず、少し贅沢な気分であった。

  砂利を踏みしめる音が全て聞こえてくる。その音を確認しながら、神社の鳥居をくぐった瞬間、風が吹き、雪が舞い降りてきたのである。雪は、砂利と灯篭を花びらのように彩り、参道の奥を曖昧にした。

  自分はコートの襟を立て、瞬間、風間杜夫になった(昔、そのような月桂冠のCMがあったのである)。なんという粋な計らいであろうかと春日神に感謝し(そんなことないか)、その異空間を楽しんだのである。雪は、本社に辿り着き、参道を戻る間、続いていたが、大社を離れると、いつの間にか消え去っていた。

  帰りに、近鉄奈良駅近くの書道具店にぶらっとよった。自分は文房四宝、特に印材が好きなので、何か面白いものが置いていないかと思ったのである。その店には、質の良い白高山凍が幾つか置いてあった。その後、平宗で柿の葉寿司を、菊屋奈良店で好物の御城之口餅を買い求め、帰途についた。帰りの電車の中、身も心もリフレッシュし、何か新しいものを満たしたようであった。そして、また奈良に行こうと思ったのである。

(奈良 春日大社 平宗 菊屋 )

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