進化 (47)

  以前、住まい近くに住むキジ猫の話をした(猫 (2))。相変わらず隣の女性との関係は続いている様であるが、最近その猫の行動について様々な事がわかってきた。ある日、他の住居の前で、件の猫が一段と柔らかい声を出し、開いた玄関から中に入って行くのを見たことがあった。また、別の日には、老父婦が住む家の縁側で、二人にお腹を撫ぜられ寛いでいるのを見かけたわけである。

  そこから、1つの推論が成り立つ。件の猫は、若夫婦の住宅ではミーくん、老夫婦宅では玉、隣の部屋ではトラ(?)などと、別の名前で呼ばれ、可愛がられている可能性があるのである。なんと節操の無い猫だ などと批判してはいけない。ヒトの場合、本家、別宅は、しばしば係争の元となるが、彼(彼女?)は、訪問介護猫(精神面で)や民生猫としての役割を果たしているのである。地域にある複数の民家を巡回しながら生活しているこのような猫を、関係する世帯の「シェア猫」として見守るというのもよいかもしれない。

  件の猫は、自分の住まい近辺を縄張りとしているが、時折、白茶の大型猫が縄張りに侵入することがある。そのような時は、シャーと威嚇して一瞬で終わることもあるが、しばしば、結構長い間、何かを喋りながら対峙していることがある。似た抑揚で段々声高に掛け合うようになり、「会話」の内容を推し測るならば、一方が「おまえなんか、キライだ〜」と言うと、相手が「おまえがキライなよりも、もっとおまえのことがキライだ〜」などと応酬を繰り返し、お互いに、いかに相手のことがキライか ということ事を競っているように見える。

  縄張り行動には、複数の意味が含まれるわけであるが、件の猫にとっては、(巡回する家において、おそらく食事の提供を受けているので)、主に食物資源を防衛するための縄張りであると考えられるが、単にモフられたいだけかもしれない。

  別の話になるが、広い敷地を持った農家が隣接した、よく訪れる郊外の図書館があった。ある時、駐車場に車を停め館内に入ろうとすると、農家の方から幼児らしき声が聞こえてきた。何処かに連れていってもらえなかったのか、何か買ってもらえなかったのか、静けさの中、駄駄を捏ねるような高音の声が聞こえてきたのである。しかし、しばらく聞いていると、何かがおかしいことに気付いた。幼児の言葉とは言え、何らかの感情的な意志表示があるはずであるが、言っていることが何もわからなかったのである。そして、時々挟むパターンにより、どうやらその声の主が猫であると想到したわけである。

山陰の新鮮な鯖を家庭にお届け「松乃江」

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  後日、偶然、農家の主婦と思しき女性が駐車場のすぐ横を通った時(その時は犬の散歩をしていたのであるが)、勇気を出して聞いてみた。御宅の猫ちゃんは、人間のように喋りますけど、すごいですね、何を喋っているんですか、という問いに対し、女性は微笑し「いつも何んかしゃべっているが、わからない」という返答であった。猫の長時間に渡る発声を特段な事とは思っていないようであった。しかし、ここにも、愛すべき物言う猫がいたわけである。

  近年、動画サイトに、ヒトの言葉を喋るという猫の映像が複数挙げられている。確かに投稿者の説明を聞けば、単語や短いフレーズなどその場の状況にあった日本語を話しているようにも聞こえる。それら動画サイトの猫たちや先の農家の猫の件から、来るべき、人語による意志疎通者は、猿でも犬でもなく猫のような気がしてくる。チンパンジーボノボ、身近なところではニホンザル等の霊長類は、平均的には猫よりも知能が高いはずであるが、真っ先にヒトの言葉を話すようになるとは思われない。

  では、猫と猫以外の動物は何が違うのかと言うことになる。一つには、生活上でヒトとの密着度が高いという点が挙げられる。飼い犬が準ずるとしても、生まれてから死ぬまで、飼い猫ほどヒトとのスキンシップがある動物は他にないように思われる。そのような生活の中で幼い時から、人間の表情、感情、行動と、ヒトが発する言葉との関係付けを繰り返し経験することになる。そして生存戦略であるとしても、ヒトと積極的にコミュニーケーションを取ろうとする意志のようなものも感じられる。手頃な体躯の大きさ、性格の穏やかさ、脅威の無さ等の特徴が このようなヒトと猫との社会的距離を可能にしているとも言える。

  生まれてからヒトに飼われ、言葉と状況の関係性を繰り返し経験することにより、脳の特定の部位の発達が促され(ヒトならば、前頭葉、ブローカ野、ウェルニッケ野、弓状束といったところであろうか)、そして、成猫に至って子を成し、脳の発達の形質を受け継いだ子孫猫が、再びヒトとの生活を送る。そのような過程を繰り返すことによって(何らかの突然変異も必要であるかもしれないが)、ある世代に、人語を解し、単語や簡単な文章を発する猫が誕生する経緯を想像するわけである。そして、言語による意思疎通を獲得した個体の数が増え、それら集団の中で交配が行われるようになると、さらに進化が加速される可能性もある。

  さて、今回は、住居近隣に住む巡回猫の話から始まり、猫が他のいかなる動物よりも人間社会に溶け込み、ヒトとの共存により急速に進化を遂げ、ヒトの言語により意志疎通を行う隣人になるという話であった。エピローグとして、SF的文章で結んでみたい。

 

 

(恒星間航行を達成し、初めて地球に訪れた知的生命体Yの記録より抜粋、

… その星には、文明を構成する3つの種族が存在した。1つは、彼らの言語でヒトと呼ばれる種族、残り2種族はヒト属より小型であり、ミーティアと呼ばれる種族は、体毛とヒト属と異なる目を持ち、抑揚のある高音で会話した …  )

 

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