火星-娯楽 (64)

  ISSの人員は、日々、計画された観測や実験の実施、健康維持ための運動、地上への報告等があり、決して暇ではないと推定される。伝え聞くところによると、食事が最大の楽しみということであるが、自由時間だってちゃんとあるはずである。では、その自由時間をどう過ごすのか、時折、ささやかな誕生日パーティーをやるようであるが、複数の人員で行う娯楽みたいなものはあるのであろうかと思ってみたりする( 帰還した飛行士に聞いてみればよいわけであるが)。

  今回は、火星行における娯楽について少し考えてみたい。火星-居住 (60)に述べたように、推進機関の進歩があり、地球から二、三ヶ月で火星に到達できるようになり、幾つかの中継点が確保されるようになると、有人ミッションや、その後の居住ミッションが現実味を帯びてくる。航行は原則自動なので、中継点や火星に到着するまで、人員は比較的自由な時間を持てると推定できる。

  ISS同様に、ニュース、音楽、メール、アニメ、映画、Youtube電子書籍など、インターネットで遣り取りできるものは(ラグがあるとしても)、制限されなければ、基本、宇宙船内でもすべて享受可能なわけであるが、それら以外にも複数で行う余暇の過ごし方や娯楽があっても良いわけである。例えば、麻雀などもその選択肢の1つである。

  特定の手牌のパターンの構築を競うこのテーブルゲームは、適度に複雑であり、運もあるが経験上の洞察も必要、かつ稀なパターン(高得点である)を構築する喜びもあり、男女一緒に楽しめる非常に優れたゲームであると言える。南極基地では余暇に楽しまれ、欧米などにおいても、近年競技人口が増えていると聞く。

  麻雀と聞くと、賭け麻雀というイメージが反射的に返ってくるわけであるが、もちろん艦内では、マインドスポーツとして楽しむことになる。(毎日行って艦内が雀荘みたいになるのを避けるために)週に数回、開催日時を決めて行うことにし、モチベーションを上げるため、例えば、第〇次火星遠征隊艦長杯とか、火星連絡船が定期化した場合など、往路杯、復路杯などを設定してもよいわけである。

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  マインドスポーツとしての麻雀が、数ヶ月に及ぶ、閉鎖空間におけるメンタルヘルスに役立つならば、ぜひ取り入れるべきと思うわけであるが、問題は道具である。多くのゲームと同様に、昨今、麻雀もディスプレイ上の2次元ゲームとして行うことが可能である。しかし、それは、卓を囲み、牌を組んで、牌を切る麻雀とは別のものである。

  火星行の初期の宇宙船は、擬似重力を発生させない形式と思われるので、そこで使える道具が必要となる。微重力や無重力空間では、個々の牌の位置が定まらないので、プラスチック磁石のような材質で牌を作ったりして、牌どうしに引き合う力を持たせることが必要と思われる。また雀卓の天板も同様に牌を安定化させるものということになる。

  しかし、牌どうしが引き合う力で纏まっていると、ゲーム開始前に洗牌できないので、やはり洗牌と山積みを行う全自動卓ということになる( 例えば、牌のすべてに、レーザーにより識別可能なマーカーを付与しておき、牌の情報のみを先にシャッフルして山積みの位置を決め、後は決められた場所に機械的に牌を移動し山積みするとか、うーん、少し時間がかかりそうではある)。

  点棒も牌同様の力で天板上に留まるとして、サイコロはどうであろう。人が振って、微重力、無重力下でうまく機能するサイコロは想像できないので、これは電子的なルーレットの様なもので代替することになる(ここまできて感じたのは、麻雀は、重力が十分でない空間でやるには向いていないゲームであるということである)。全自動卓のメーカーに頑張ってもらって、JAXAと共同で、艦内で使用できる全自動卓—道具一式を開発してほしいものである(火星航路が定期化したり、月面基地ができれば、需要を独占できる可能性もある)。

 

さて、航路において楽しまれた麻雀が、火星の居住基地に持ち込まれるのは自然な流れである。その場合、火星では、一定の重力があるので、地球で使用される道具でも良い可能性がある。各地の基地やコロニーで麻雀が流行るようになると、やがて、Mars杯のような選手権が設立され、火星のゲーム(麻雀)史が始まることとなる。その記録に、火星で初めて、九連宝燈であがった人物が、マリネリス渓谷の地質調査中に亡くなった、などという都市伝説のようなものが含まれている可能性もあるわけである。

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