甘味 (8)

  今回は自分の好きな甘味3つについて語ってみようと思う。1つ目は鶏卵素麺である。元々、全国有名土産物みたいな本で存在は知っていたが、博多に行ったおり、偶然どこかの店舗で見つけ購入したのが始まりである。この超有名な南蛮菓子は、口に入れた時の卵黄の香りと蜜のようなあまみ、麺状からくる独特の食感が持ち味である。自分が購入した鶏卵素麺は、「松屋」のものであったが、商品自体は、鶴屋八幡等の他の和菓子店でも販売しており、本州ではそちらで購入することが多い。

  一日で二棹ぐらい食べてしまいたいところであるが、レシチンルテインが摂れるという利点もあるが、コレステロールや糖分が問題となるので、やはり程々にしておいた方が良さそうである。「グレーテルのかまど」で雅楽家東儀秀樹氏が、タイ版鶏卵素麺であるフォイトーンの作り方を紹介しているサイトを見ると、それほど難しくなさそうなので、いつかは自家製にチャレンジしてみたいと思っている。

  2つ目は、納屋橋饅頭である。このあまりにも有名な酒饅頭は、名古屋の百貨店やお土産物屋等で見ることができる。現在、暖簾分け等で3つの製造元に別れているようであるが、自分は、母に平田町店の饅頭をよく送ってもらっている。

  この饅頭は、全国に数多ある他の酒饅頭よりも、小豆餡の酒気が高く、皮が素朴である。足が早く、購入して数日もすれば皮が硬くなり、さらに少し経てば酸味が出てくる。自分は入手すると、一番若い状態で数個食べ、あとは冷蔵庫に入れ、変化していく食感と味を楽しんでいる。出来立ては当然美味しいのであるが、自分としては酸味が出て皮が硬くなったのも好物である。

(本店は、2016年以降休業中であったが、その後、2021、22年に相次いで、コロナや後継者不足の影響から、分家2店も閉店し、現時点(2022年3月)で、同饅頭を賞味する事ができない状態にある。ファンとして、何とかこの美味しい饅頭を復活してほしいと願うばかりである。)

  3つ目は、「かん袋」のくるみ餅である。クルミの餡をかけた所謂クルミ餅自体はどこにでもあるが、「かん袋」のくるみ餅は、それらとは非なる物である。堺市新在家町の店舗(支店などなく、この店でのみ飲食、購入可能)では、10センチほどの専用の陶器皿に、鶯色の餡に白玉のような小餅が5つほど入ったくるみ餅と、ガラス皿に入ったくるみ餅の上ににカキ氷を載せた氷くるみ餅と、お土産用くるみ餅が提供されている。

  くるみ餅の最大の魅力は、その何とも言えないまったりとして、少しナッツを感じさせる、独特の餡である。この餡のレシピは、門外不出で、代々、当主にのみ一子相伝で伝承されている(何か北斗神拳か灘神影流の様である)と、どっかのメディアで聞いたことがあるが、確かにこれまで他店で同じ餡に出会ったことは無く、先の姿勢が功を奏しているのかもしれない。

  しかし、何からできているのかということには興味がある。HPのかん袋の由来によると、安土桃山時代以降にルソン貿易による砂糖が加えられ、現在のくるみ餅になったとある。原則として作り方を変えていないとすると、くるみ餅は、先の砂糖を始めとして当時の堺で手に入ったものからできているということになる。

  もう、 かなりの数、賞味しているが、時折り餡に茶葉らしき破片が入っているのを見ることがあるので、おそらく餡に鶯色を着けているのは茶葉と思われる。またWikiに、などで「くるみ餅」と言えば大豆餡 という一節があるので、餡に粒子感を与えているのは、大豆餡(枝豆ではなく普通の大豆)の可能性がある。ただ、くるみ餅の餡には透明感があるので、自分的には餡のベースにあるのは葛湯(吉野からきた葛粉かもしれない)であり、葛粉、大豆餡、砂糖、茶葉を、独特の投入手順、練りや火入れによりまとめた上げたのが、くるみ餅の餡であると推定している。先の材料は、当時の堺においても十分調達可能なもので、結構いい線いっているのではないだろうか。何れにしても、今後とも、商業展開せず、庶民の伝統の味を守り続けて欲しいものである。

和菓子で唯一の発酵食品、元祖くず餅【船橋屋】