暖 (9)

  以前、M寮に住むY先輩の話をした。その後、アメリカに留学したY先輩は、帰省の折、一度だけ研究所に来たことがあった。そして向こうの状況を少しだけ話してくれた。

  ある日のこと、その日は、研究室における自分の仕事を終え、帰宅後、食事、入浴等を済まし、早々と床についた。昼間の疲れもあってか、あっという間に眠りに落ちていた。

  深夜に電話で叩き起こされた、今すぐ研究室に来いと。何かミスをしたかと不安を抱えながら研究室に着くと、自分の実験机に何か大きな入れ物がどんと置いてある。開けてみると、ついさっき取り出したばかりであろう、ふつふつと湯気を立てた巨大なヒトの肝臓が入っていたそうである。

  Y先輩の研究は、ざっくり言えば、主に肝臓に含まれるある酵素の分子種やその性状を調べることである。彼は渡米したことで、その対象をヒトにまで広げる事となった。夜中に事故等で急遽、献体された肝臓が、彼の所に廻ってきたというわけである。

  最初はショックであったが、何度か同様の事がある内に慣れ、冬などは、かじかんだ手を、臓器の間でほぐし暖めてから作業をする余裕ができたとか。自分は、もともとレバー好きというわけではないが、この話を聞いて以来、さらに縁遠くなったような気がするのである。

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