侵入 (96)でハチの話をしたが、実は、ハチは自宅だけの問題ではなかった。以前、移動式 (56)に車の助手席側に、フタモンアシナガバチが巣を作った話を書いた。今年も、同種のハチが車の周りを飛んでいることがあり、何となく予兆はあった。また巣を作るのかと注意していたが、特に異常はなかった。しかし、不思議と運転席側のサイドミラーにハチが止まっていることがあった。
そんなある日、発進しようと運転席に座り、何気なくサイドミラーを見た時である。ミラーは電動で角度を変えることができるが、そのミラーとプラスティックの覆いの隙間から、複数のハチが出入りしているのが見えたのである。
ここに至って、サイドミラーの中に巣を作っている事が、判明したわけであるが、視界不良になっては困るので、当初、薄い金属のヘラのようなもので、掻き出そうとも考えた。しかし、中に何匹のハチがいるかわからず、逆襲されても困るので、刺激せず様子を見ることにした。
サイドミラーはドアにくっ付いているので、乗り込む際には注意を要する事となった。開閉時に衝撃を与えると、ハチが興奮して飛び出してくる可能性があるからである。それ以降、静かに開けて、静かに閉じるのが鉄則になったのである。
しかし、一段と暑いとある日、アクシデントは起きた。いつものように慎重にやったつもりであったが、ドアを開けた時に、一匹のハチが近づいてきたのである。これから出かけるのに、中に入られては困る。反射的に払った手をハチが刺した。
一瞬のことで、ズキンと何かを挿入される感じがした。右手親指の最初の関節の丁度曲がる所を刺されたのである。その日から数日、親指は曲げれないほど腫れ、元に戻るのに2週間以上要したであろうか。
ハチは刺されるごとに症状が悪化するので、以降は以前にも増して注意することとなった。その後、サイドミラー(の巣)は、多くの小バチを輩出し、9月の終わり頃、付近を徘徊していた最後一匹が居なくなり、現在に至っている。
さて、母に、ハチが車に巣を作った件、刺されてしまった件を、電話で話した。すると、母は以前山梨の家を訪れた時の話をした。中央道をかっ飛ばし、山あいにある兄の家に着いた。しかし、そこで迎えに出てきたのは、見知らぬ人物であった。一瞬、「どなたさんですか」と言いそうになるのを飲み込んで、話をすると、声や雰囲気からわが息子のようではある、しかし、顔が違うのである。その下ぶくれした漫画のような顔の人物が話すには、少し前、外で作業をしている時に、下唇を刺されてしまったとのことであった。この話をしている時の母は、当時の兄の顔を思い出したのか、少し愉快そうであった。どうやら、ハチに刺されやすい兄弟のようである。