自然圏2 (33)

  冒頭で述べたように、大仙陵古墳を始めとする天皇陵の多くは、築造時、葺石等で覆われ、人工的な表面を持つ構造物であったという。現在の古墳の森を構成する植物は、人が移植したものでないならば、盛り土に含まれていた根や種子、鳥や風による飛来物に由来すると考える事ができる。大仙陵古墳を始めとする百舌鳥・古市古墳群の多くは5世紀頃の築造と考えられるので、古墳の植生は部分的に、現在は宅地や商業地で失われた、古墳近隣の過去の植生を反映しており、古墳はそのような植生のタイムカプセルである可能性がある。そして、このような古墳の緑地は、自然圏を提案する上で、自分に肯定的な印象を与えたわけである。

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  自然圏の造成に用いる移植要素とは、広葉樹林や落葉樹林或いは暖帯林や温帯林等の表層を、一定の面積、深度で保存したものである。植物の地上部を付随する必要はなく、具体的には、樹林の林床をなすO層、表土であるA層、下層土であるB層からなるものであり、樹林を構成する植物の種子、根、蘚苔類、地衣類、真菌類、微生物等を含んでいる。自然圏は、同要素を自然圏予定域にスポット状に移植し、自然遷移させることによって形成される。

  この移植は、生態系移植ともいうべきもので、その特色は、使用した要素の樹林のタイプによって、発生する植生のアウトラインを想像することはできるものの、基本的には何が生えてくるか、細部においてどのような植生になるのか不明であるという点である。この生態系の分枝多様性こそが、自然圏の持ち味であり、移植後、毎年季節ごとに観察会や報告会を開き、遷移をリアルタイムで享受する事ができるオアシスとなり、極相においては、軽登山やトレッキングを行うフィールドと同等のものになると考えられる。自然圏は、下鴨神社の 糺(ただす)の森程の大きさから、マンハッタン島のセントラルパークぐらいの大きさ、或いはより広い領域に、二、三百メートルの高低をつけた山並みを作ってもよいわけである(遭難する人が出るかもしれないが)

  以上が、コンペで提案した自然圏の概要であるが、この自然圏を実現するためには、解決すべき問題がある事がわかる。それは移植要素となる樹林表層の調達である。全国では、宅地開発等による自然林の伐採は間断なく行われているので、提案では、そのような情報を得て、破壊される前の表層を取得し、自然圏に適用できるようコーディネイトする部署が必要であると述べていたように思う。そして、自然圏は、実際の都市以外にも、以前記した巨大艦の人工島に(大洪水2 (21))、或いはスペースコロニーに構築されても良いわけである。   

  極北の地、ノルウェースピッツベルゲン島には、有名なスヴァールバル世界種子貯蔵庫(Svalbard Global Seed Vault)がある。この世界最大の種子銀行には、農作物の種子を含め、世界中から寄託された100万種以上の種子が低温保存されている。種子という標的に絞ったこの取り組みは、大規模な気候変動や自然災害後の植物の再生において、画期的役割を果たす可能性がある

  一方、自分は、樹林表層の保存を行うSGSVのような機関(保存技術の開発も付帯すべきと思われるが)も必要ではないかと考えている。そこで保存された表層は、遺伝子多様性を、ピンポイントな植物ではなく、包括的に保存するという点で重要であり、自然圏の形成にも適用しうるからである。このような機関が稼働すれば、日本からは、第一弾として、白神山地屋久島、大台ヶ原等々の表層が保存される事になるのであろうか と想像してみたりするわけである。

さて、今回は、昔提案した事を少し現代的に捉え直し紹介してみた。

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