自然圏1 (32)

  大仙陵古墳は、二条、三条、…、七条と横切るなだらかな上り坂の先に、丘のように見える。築造当時は、葺石で覆われ、種々の埴輪が配置されていたようであるが、現在は、松などの植生があるこん盛りとした森である。年に一度か二度、夕立か前線が通過した時、古墳の森の中の一際高い松の木の背部に雷が走り、轟音をとどろかせる事がある。別に陵に落ちたのでは無いであろうが、そのような時は、ダンジョンへの入り口が開くような気がしたものである。とは言え、被葬者や考古学的な問題に特段興味があるわけではない。自分は別の事に興味を持っていたのである。

  だいぶ以前の話であるが、関西在住の折、コンペに応募したことがあった。そのコンペは、主催や後援などもう覚えていないが、誰でも応募できるもので、大都市の21世紀計画 というようなテーマであったと思う。そこに自分は、大胆にも、自然と都市の融合を目指す1つの計画を提案したのである。

  現在では、個人宅やビル屋上の緑化は珍しくもなく、屋根上が草でぼうぼうになった家(もちろん、打ち捨てられた家ではなく、計画的に作られ、ちゃんと人が住んでいるわけである)や、ビルやアミューズメント施設上の本格的庭園や林のようなものをしばしば目にすることがある。自分が当時考えたのは、屋上緑化というよりも、もっと大規模な区域全体の構造上部緑化であった。

  博物館、美術館、図書館、多目的ホール、役所など、公共性の高い施設を集約したり、或いは浄水場や変電所などを包含した一定の領域を、連続性のある丘陵状態にし、その上部を緑化するというものであり、基本的には平地から造成し、各建築の構造最上部を連結、一体化し、全体としては連続性のある擬似自然地形とする。各施設の出入口や採光部は、原則として側面に存在するので、上空から見れば、極相においては、さしずめ都市開発に取り残された自然林のようである。

  そして、最大の特徴は、緑化部分が、計画的ではあるが厳密には植林されたものではないということである。先に記した、既存のビルや施設屋上或いは公園の緑化は、樹木や草本を選定し、計画的な配置で植え付けられたものであるが、提案された緑地は、人工土壌に、植生の基盤となる要素は移植するものの、基本的には自然遷移に任せたものである。それ故、自分は構想の緑地を「自然圏」と呼んでいた。

(つづく)

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