核融合 (12)

  関西在住の折は、レーザー核融合センター(現レーザー科学研究所)の機関紙が回ってくることがあり、慣性核融合の進展に興味を持っていた。それ以前にも日経サイエンスの特集号などに、ガスタンクのような球形構造に円筒形の首と台座を取り付けた巨大な核融合装置の解剖図が示してあり、球体斜め上部にある投射装置から射出された燃料ペレットが、球の中心点において球面に等間隔に配置された8ヶ所の開口部から発射された強出力レーザーによって爆縮され、核融合が生じ、その際の熱が、球体内面を覆い、上から下へと流れる液体リチウムを加熱し、加熱された液体リチウムが、外部で熱交換した後、再び上部から装置に導入されるという大胆な仕組みを見て、いつかはこのような装置が実現するのかとわくわくすると同時に、この方式で発電が実現するためには、これまでにないブレイクスルーを必要とするとも感じていた。

  今回は、当時、自分がレーザー核融合について感じていた事、レーザー核融合を実現するために考えていた事を大胆に述べてみたい。少々、原理的な事から説明を始めたいと思う。

  先の日経サイエンスのレーザー核融合は、以下のD-T反応を想定している。

       D + T→4He + n (14MeV)

(D(deuterium)は二重水素、T(tritium)は三重水素、Heはヘリウムは、nは中性子)

そして炉内面を覆うリチウムは、

      6Li + n→ T + 4He + 4.8 MeV

      7Li + n→ T + 4He + n - 2.5 MeV (Liはリチウム)

といった反応により、高速中性子を受け止めて、照射脆化による炉壁や構成材の劣化を抑制し、プラズマ内で生じたエネルギーを受け取り、D-T反応の燃料である三重水素の生産を行うという役目を果たすことになる。リチウムはブランケット構造の中を流れているのではなく、炉の内面にホールドされており、高速中性子をダイレクトに受け取る所がミソであろうか。

  さて、D-T反応の原料となる燃料ペレットは、二重水素三重水素からなる数ミリの中空球形体であり、個々のペレットを用いた融合反応の実証実験では、1つづつ実験者が中心点に置いて爆縮するので特に問題はない。しかし、実際の発電においては連続的に爆縮を行うので、ペレット位置の高度な制御が必要である。そのような制御技術以前の問題も存在する。燃料ペレットは反応直前まで極低温の状態にあり、高温のプラズマが発生している爆縮予定位置まで、無傷で到達する必要があるが、これは不可能と言わないまでも、極めて困難状況である。テレポーテーションのような技術によって、ペレットの移送と爆縮を同期させるのが、想定しうる最もよい方法かもしれないが、これは未到の技術である。燃料ペレットの連続爆縮の問題は、レーザー核融合による発電の困難さを示しているように思われる。では、レーザー核融合による発電を実現するためにはどうすればよいのか、当時の状況を踏まえ、自分なりの意見を少し述べてみたい。

  まず低温に保持された燃料ペレットを、中心点で連続的に爆縮するのは、ほぼ不可能なので、核融合燃料としての燃料ペレットの使用は放棄する。燃料は、トカマク型同様、二重水素三重水素混合気体(二重水素のみでD-D反応の可能性もあり)を用いるが、高濃度で加圧(場合によっては加温も)し、原子の平均自由工程を最小化した状態で用いる。

  燃料ペレットを用いないことから、爆縮の球対称性は放棄し、線対称性とする。すなわち、直線軸上、或いはわずかにくの字型に角度のついた直線軸上を逆方向から進行するレーザー光の接着点(くの字型の場合は折点)が爆縮部位となる。昨今の超高強度・超短パルスレーザーの進歩は著しく、1021W/cm2以上の光強度を持つレーザー光が可能であり、爆縮にはそのようなレーザーが用いられる。線対称性に移行した爆縮は、広くはないが点ではない、一定面積の面(面爆と呼ぶことにする)にて行う。超高強度レーザーによる面爆を高頻度で繰り返すことにより、D-T反応によるディスク状のプラズマを発生させ、維持するというものである。

  さて、当時からかなりの時間が経過した。トピックな報道を耳にしないところを見ると、レーザー核融合は、まだ発電の緒に着いていないように思われる。そうこうするうちに、実現可能な核融合発電として、世の中の趨勢は、磁気閉じ込め方式に移行し、国際熱核融合ITERのプロジェクトが進行している。自分としては、エポックな進展があって、レーザー核融合発電が、さし馬のように表舞台に上がってくることを期待するわけである。

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