宝石的2 (16)

  もう1つの男の宝石はずばりパイプである。パイプ本体の材料としては、ヒースの木の根であるブライヤーが有名であるが、もう1つ有名な材料に海泡石( Sepiolite、セピオライト)、メシャムがある。メシャムは、多孔性の含水ケイ酸鉱物であり、モース硬度2程で加工しやすく、軽く適度な熱伝導性を持つため、パイプ材料として利用されてきた。メシャム自体は、白~灰色の不透明な塊であり、良質のものはトルコで採れるが、アフリカやアメリカでも産出し、先に述べた石印材程、高価なものではない。

  しかしながら、喫煙による、特有の経時的変化により、独特の美しさや稀少性を生みだすという性質を持っている。メシャムは多孔性なため、長年、喫煙を続けるとタバコ由来のタールやカーボン等が少しずつ沈着し、火皿あたりから黄褐色に変化しはじめ、やがて全体が飴色や琥珀色を呈するようになる。

  このような変化は一朝一夕に進むものではなく、親子二代に渡る程の継続した喫煙によって達成されるものであるという。見方を変えれば、メシャムのパイプ持ちは、パイプを飴色に育て上げることが、究極の目的であると言える。以前、とある病院近くのバス停で、長髪にカウボーイハットの、背の高いカントリーミュージシャンのような男性が、見事に飴色になったメシャムのパイプを大事そうにふかしているのを見て、はっとした事がある。それが今の所、飴色に変色したパイプを実際に見た唯一の例であろうか。メシャムのパイプは、落として割れたり欠けてしまい、志半ばにして挫折することがままあり、それだけに飴色に到達したパイプは希少であり、男の宝石と言えるものである。

  自分は喫煙家では無いが、パイプを嗜む父の影響を受けて、火を宿しても容易く消える事のないパイプに興味を持っていた。そして、飴色を呈したメシャムパイプに価値があるならば、それをもっと早く、親子二代かけずとも達成する方法がないかと考えたことがあった。すなわち、刻みタバコの装填→着火→(吸引、ふかし、ダンプ)→燃焼灰の除去→クリーニンング→といった一連の過程を全自動で行うロボットを作製し、パイプによる喫煙を絶え間なく継続すれば(割れないように、冷却時間を入れる必要があるかもしれないが)、ヒトが吸うよりもずっと早く、飴色を達成できるのではないかと考えたわけある(喫煙による健康被害もない)。このシステムは、まだ実現には至っていないが、愛煙家が時間をかけてパイプを育てあげる喜びのようなものが欠落しているとも言える。それに、煙を垂れ流し続けるという点で、少々問題ありかもしれない。

 

  さて、男の宝石について上に述べたが、男の宝石には共通の特徴があることがわかる。それは石印材もメシャムも柔らかい石であるということである。落としたら欠け、硬いもので圧をかければ粉砕することができる、ダイヤモンドやサファイア等の強靭性とは相対にあるような、脆い石であるということである。その脆さを認識しつつ、その儚ささえも石の価値とみなす所に、男の宝石の特質があるように思われるのである。