宝石的1 (15)

  今回は、男の宝石について考えてみる。男の宝石〜? と聞くと、最近の若者はおしゃれだから、指輪やネックレスをしている男性も多く、そこに石がついているとか、カレッジリングやスポーツのチャンピオンリングにも宝石をあしらったものがあるし、カフスやネクタイピンにダイヤや色石がついたものがあるので、それらはみんないわば「男の宝石」であると考えるかもしれない。ここで言う「男の宝石」とは、男性に圧倒的にシェアが多く、かつ嗜好されている宝の石という意味合いである。

  勘のいい読者ならば、もうピンときたかもしれないが、1つ目はそうあの印を押す石、印材である。宝石というからには、美しくなければならないが、三大印材(色んな選択がある)である、鶏血石の鮮烈な赤、田黄石のまったりとした橙色、広東緑石のエメラルドのような緑色は、紛れもなく美しく、宝石としての特性を有している。これら印材自体は、葉蠟石(pyrophyllite、パイロフィライト)と呼ばれる、モース硬度1.5程のケイ酸塩鉱物であり、他に含まれる鉱物や不純物の違いによって、独特の色合いや模様を呈するようになる。そして、今の所、美材のほぼすべてが中国産である。しかし、今後、ロシアや他の地域で良材が産出される可能性はある。

  一昔前は、北京の琉璃廠(るりしょう)あたりで、血が一筋入った片手で握れるほどの鶏血石が、あっと驚く(・・ごろう〜 古う〜)価格で販売されていたそうであるが、現在は、血の入りの多さにしては安価な印象を受ける。鶏血石の血の部分は鉱物的には、硫化水銀(II)(HgS)であり、それ自体は容易に化学合成可能なので、合成したHgSのみを高圧で圧着すれば、100%の鶏血石が得られそうではある。オークションサイトなどでは、血だら真っ赤の鶏血石がかなり安く売りに出されているのを見ることがあるが、それらが天然石であるかどうかは不明である。

  また、石印材の王者と呼ばれる、田黄石は、本来、福建省福州市寿山郷の田黄坂と呼ばれる一帯で採れる石印材であるが、巷には多くの田黄石が出回っている。そして寿山郷の石に限らず、田黄石同様に黄色や橙色を呈し、美しい石印材は存在する。それら石印材と田黄石を判別する決定的方法はなく、今の所、目利きの印象に依存するのみである。高価なものだけに、近赤外線分光のような非破壊検査による、田黄石特有の成分組成等を用いた科学的指標がそろそろ出てきても良さそうな気がするが、文房四宝なのでいささか無粋かもしれない。

  三大印材以外にも美しい印材は多く存在し、自分としては、赤みがかった橙色が鮮やかな「美人紅」や、透明感のある白色が清麗な「白高山凍」(瞬間(6))、薄緑色に青紫色の花が乱れ咲く「蘭花青田」が特に好みである。高価な石印材は、書家や好事家が蒐集している場合が多く、男性が所持する割合が多い、男の宝石と言えるのではないだろうか。   (つづく)