子孫3 (57)

今回は、子孫に関する第三弾である。

前回(子孫2 (54))、前々回(子孫 (46))と、将来、人類は、体外受精と人工子宮の技術を用いて、自らが保存した配偶子(精子、卵細胞) を用いて、子作りを行うようになるという考えを述べた。

  それを読まれた方は、「昨今流行りのiPS細胞は出てこないのか」と思ったかもしれない。iPS細胞の要点に関しては、他のサイトや文献を参考にして頂くことにして、これまでに、多能性幹細胞であるiPS細胞から作製された網膜細胞や心筋細胞が実用的な段階に入りつつあり、糖尿病患者にとって救いとなる膵島細胞の誘導も研究されており、もちろん生殖医療に関する取組みも積極的に行われている。精母細胞や卵母細胞等の誘導研究が行われ、生殖系列の細胞を経ずに精子や卵細胞を誘導することも想定されている。それらiPS細胞由来の精子や卵細胞を用いて、体外受精や人工子宮による子作りを行うことも、将来的に十分可能と考えることができる。

  しかし、その様な子作りが認可されるためには、時間を要すると思われる。iPS細胞から誘導された精子や卵細胞(様細胞)が正常に受精するか、受精できたとして、その後正常に発生するかという点や、天然の配偶子による個体との違いについて解析する必要があるからである。それらすべての問題をクリアして、iPS細胞由来の配偶子を用いた生殖が許可された時、現在の感覚からすれば、奇妙な子作りの様式が出現することとなる。(このようなiPS細胞等、多能性幹細胞から誘導された配偶子を用いた受精を、誘導配偶子受精(induced gamate fertilization,IGF)と呼ぶことにする。)

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  iPS細胞は体細胞から作製されるので、生殖器や生殖機能を失った人からも、調達可能である。それ故その様な状況にある人々が、自己の遺伝子を受け継いだ子孫を残すという点において光明となる可能性がある。当初、男性の体細胞からは、iPS細胞を経て、X又はY染色体を持つ精子が、女性の体細胞からはX染色体を持つ卵細胞が作製されると考えられるが、延長線上には、男性のiPS細胞から卵細胞を、女性のiPS細胞から精子を誘導することも想定されるわけである。その場合、幾つかの興味深い状況が発生することとなる。

  男性由来の卵細胞の場合、性染色体はX、Yどちらも可能なので、Y染色体を持つ卵細胞という自然界には存在しない配偶子が誕生することになる。また、現在の生物的生殖においては、ミトコンドリアDNAは原則、母性遺伝であるが、誘導配偶子受精により、男性由来の卵細胞を用いた場合、ミトコンドリアDNAの「父性遺伝」も可能ということになる。

  ミトコンドリアDNAは、細胞そして個体の形質に影響を与えるので、男性由来卵細胞と女性由来精子による受精であるのか、従来の男性由来精子と女性由来卵細胞であるかによって(もちろん男女ともに通常であれば、わざわざ誘導せず、保存配偶子を用いればよいわけであるが)、同じ男女間の子でありながら、個体の形質に相違があると考えることができる(個人的には、疾患のかかりやすさや、寿命などが違うのではないかと想像している)。

  また、男女各々が自らのiPS細胞から、精子も卵細胞も作製し、それらを用いて子孫をなすとすると、さらに奇妙な事態が生じることとなる。これは、細胞核を未受精卵に移植する核移植とは異なる自己クローンの作製方法ということになる。同技術により、男性が自己のクローンを作る場合、性染色体の組合せを選択することにより、男性でも女性でも得られるということになる(提供者が男性なのに女性のクローンというのは、いささか不思議な感じであるが)。逆に女性が自らの誘導配偶子により自己クローンを得る場合、当然のことながら女性のみである。(IGF自己クローンにおける性の縮約)。

  そして、核移植による方法では、ミトコンドリアDNAは未受精卵の提供者由来となるが、上の技術では、両配偶子とも同一人由来となるので、生じたクローンは個人の完全なクローンということになる。そのような完全クローンの需要を考えてみると、SFにありそうであるが、1つには、傑出した身体と頭脳を併せ持つ兵士のクローンというのが想定できるわけである(そのような科学レベルにあって、なお、クローン兵士を投入すべき戦争や紛争が存在するかは不明であるが)。

  さて、以上のように科学的手法によって、少子化問題を克服した未来には、これまでに記した来歴を持つ、多種多様な人々が共存する可能性がある。「子孫」の次回は、これまでの手法と結果を整理し、そのような未来における人間集団の様相を考察してみたい。

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