キノコ3 (29)

 今回は存在感に焦点をあてたキノコの話である。

  フユヤマタケ(冬山茸: Hygrophorus hypothejus)というキノコがある。初めてみたのは道の駅である。プラスティックのトレイに、傘の直径が1.5〜2.5cmほどの華奢な薄茶色のキノコが入っていた。量も少なく、調理しても一口二口で終わりそうな感じであったが、未食の可食菌は原則として食べることにしているので、買い求め食べてみることにした。若干のぬめりが有る本体を軽く湯通しし、ナメコのようにおろし和えにして食べてみた。すると、有るか無きかの量にもかかわらず、しっかりとした歯ごたえが有り、口中に旨味が広がった。

  これに味をしめた自分は、後日、フユヤマタケを採りに出かけた。雪が降った日の翌日、日が射す松林に入ると、解けかけた氷雪の隙間に、小さなキノコがポツポツ生えているのが見え、裏返すと荒いひだで、この季節、同じ状況で他に生えているキノコもなく、買い求めたのと同じ、フユヤマタケである事がわかった。驚くべきは、環境が氷点下近い温度であるにも関わらず、ちゃんと発生し、子実体を形成している点である。ザゼンソウ(座禅草)に似た発熱システムでもあるのかもしれないが、実態は不明である。

  時間をかけても、大した量は採れなかったが、その夜は、二度目の喫食となった。そして、フユヤマタケが、その表面的な地味さ、存在感の無さとは裏腹に、冬期に採れるキノコとしては、一二を争うほど美味な、「小さな巨人」とも言うべきキノコであると確信した次第である。

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  一方、フユヤマタケと相対をなすようなインパクトのあるキノコもある。少し古い話であるが、大学の駐輪場の横に、開発を免れた、こんもりとした森があった。その森はスダジイの大木が何本も生えており、森の中は、遥か上方にあるシイの樹冠に光が遮られて、草本に囲まれたシイの幹ばかりが目立つ鬱蒼とした空間であり、N君とともに(キノコ1 (3))、時折キノコ採集に出かける場所でもあった。

  とある日、森に入り探索していると、シイの木の根元、地表から40センチぐらいのところに、真っ赤なプラスティックのようなものが見えた(初めての印象は、実際そのようなものである)。どこからかプラゴミでも飛ばされてきたのかと思い、よく見ると、サルノコシカケのようにちゃんと幹から出ている。なんなのかわからなかったが、同行のN君に、それはカンゾウタケ肝臓茸:Fistulina hepatica Schaeff.:Fr.)であると教示された次第である。

  カンゾウタケは、少し古くなったものは、暗赤色から褐色であるが、若いものは鮮烈な血の滴るような赤で、その存在感は圧倒的である。横に広がれば、名前の由来の肝葉に見えるが、縦に伸びれば、赤いベロのようである。その外見から、積極的に食べようという気にはなりにくいが、欧米では食菌として普及しているようである。

  他のシイの根元も探し、計3つほど収穫することができたので、寮に持ち帰り食べてみた。実質はしっかりとした弾力があり、切り方によって霜降りの肉のように見え、切断面からは薄い血液のような汁が染み出ている、なんだ獣肉の切り身そのものではないか とその類似性に感動するほどである。薄片を口に入れると、キノコには珍しくしっかりとした酸味があり、サラダにしてもいけそうである。汁の具や炒め物にしても、市販の食菌同様、無難に食べることができるが、調理していると、色の成分が染み出し、料理全体を赤くしてしまうという特徴がある(したがって、ナポリタンの具にすると問題はない)。

  カンゾウタケは、多くの場合、少数の木の根元にポツンと1つ生えているだけなので、希望する量を計画的に採取することは不可能である(他の天然菌も原則として同様であるが)。しっかりとしたキノコであり、自分的には、市販用食菌としての価値はあると思うので、どこかの企業が人工栽培に参入しないかなと期待したりするわけである。そして、料理の具材にするのは勿論であるが、その際立った特徴である酸味と色を生かして、五智果(桃林堂)のような砂糖菓子にしたり、ピューレにしてソフトクリームにするのも良いのではないかと思っている。これは、キノコのスイーツという新しいジャンルになる可能性もあるわけである。そして、やはり気になるのは、その赤い成分である。おそらく、色素成分は同定されていないので、化学構造を明らかにし、新物質であるならば、生理活性等を明らかにしてほしいものである。

  フユヤマタケはもう季節外れであるが、カンゾウタケはこれからがシーズンである。森や林にあるシイの大木の根元あたりを探して見ると、運が良ければ、赤い妖精を発見できる可能性もある。劣化しておらず、しっかりした菌であれば、食にチャレンジしてみるのも良いかもしれない。

 

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