歩く (23)

  以前、大学時代の寮生活のことを書いた(キノコ1 (3))。寮には主に新入生を対象とする夏場の行事があった。それは、ただひたすら歩き続けるという行事で、寮を午後に出発し、街中を通って40キロほどの道程を夜通し歩き続け、朝方、山中の目的地に到着するというものであった。

  歩き始めこそ元気であるが、夜も更けてくると、腹が空き、喉も渇いてくる。疲労困憊し、亡者のように山中を歩き続ける一行の前に(もちろん、舗装されたちゃんとした道路であるが)、突如、天使が舞い降りるのである。

  毎年のことで、出発時刻も決まっており、どの時刻にどの辺りを歩いているのかわかるので、サポート隊が、寮生の車におにぎりやお茶を載せて駆けつけ、豆などを潰し続行不可能な者を回収するというわけである。汗と埃にまみれた顔で握り飯を頬張る顔を見つつ、「うん、うん、美味いか、よう噛んで食え、お茶もあるぞ…」などと例年通りの会話をし、ほんの少しだけ先輩の威光を示すわけである。

  その年、自分はサポート隊として、他の寮生とともに、主におにぎりの製造に携わっていた。結構たくさん作るわけであるが、最初のうちは、佃煮やおかかなど普通の具を入れていたが、それでは面白くないという雰囲気となり、誰かが、飲み会の後に残っていた柿の種を入れ始めると、もう後は堰を切ったように手当たり次第に、ピーナッツ、ポテトチップ、ビスケットなど様々なものを入れるようになっていった(もちろん食べれるものであるが)。自分はと言えば、夕食の時に出たブドウ(デラウェア)から実をもいで、皮を取った生ブドウを、せっせと入れていたのである。

  行事の後、帰寮した学生におにぎりはどうであったか聞いてみたところ、疲労しており、食べるのに夢中であったせいか、特にこれといった印象を持っておらず、自分が生ブドウを入れたことを告白すると、確かに、時々甘いおにぎりがあったが、さっぱりとして美味しかったという意見であった。

  昨今、SNS等で取り上げられることの多い、フルーツサンドというものがある。イチゴやキウイ、バナナ等のフルーツをクリームと一緒に挟んだサンドイッチであるが、訪日外国人にも中々好評であると聞く。であるならば、自分は上の経験から、「フルーツおにぎり」もどうであろうかと思うわけである。シャインマスカットや巨峰やイチゴなどを1つ入れると存在感が強すぎるので、やはりデラウェアのようなブドウにするか、カットしたものを適量入れるのが良いように思われる。

  さて、今回は、今は懐かしき寮生活時代の一齣であったが、今後も思い出し次第追加していく予定である。